パーキンソン病のこと

パーキンソン病について

地域の神経内科診療・内科医療に貢献

私は鹿児島市玉里団地の宇根クリニックで脳神経内科を開業しています。
私の出身母体である鹿児島大学神経内科・老年病学講座は、わが国で最も規模が大きく歴史ある神経内科教室のひとつです。そのため鹿児島県は、他の都道府県に比べて神経内科の診療体制が整っている環境にあります。その中で町のお医者さんとして、頭痛・めまい・しびれ等の症状や脳卒中後遺症・パーキンソン病・アルツハイマー型認知症等の一般神経内科外来を行っています。

パーキンソン病は全身疾患 運動症状以外にも様々な症状

パーキンソン病の症状としては振戦(手足のふるえ)、筋固縮(筋肉のこわばり)、無動(動きが遅い)、姿勢反射障害(身体のバランスを保ちにくく、転びやすくなる)といった運動症状がよく知られています。症状はそれだけではなく、運動症状に先駆けて出現することが多い便秘などの消化器症状、排尿障害、立ちくらみ、悪夢を見たり寝言を口にしたりするレム睡眠行動異常といった様々な非運動症状を呈することがあります。そのため、最近では「パーキンソン病は全身疾患」と言われるようになってきました。長い経過の中で、患者さんはこうした様々な症状を抱え、お悩みであるということを念頭に置きながら診療するよう努めています。

顔の表情が乏しくなる「仮面様顔貌(かめんようがんぼう)」も、パーキンソン病の症状のひとつです。その原因は顔の表情筋の固縮とされていますが、病気によって気分がふさぎ込みがちになり、心の動きが滞ってしまっていることが背後にある場合があります。そのため私は、「元気が出ないと仰っていますが、表情は前回よりも明るいですよ」、「よく笑えるようになりましたね」など、患者さんが前向きになれる改善点を見つけてお声がけするようにしています。

症状を共有することが難しい病気 想像力を働かせながら診療

パーキンソン病は、患者さんと医師が症状を共有することが難しい病気です。例えば他の疾患で呼吸器・消化器・循環器に現れる一般的な症状である咳や腹痛、動悸などであれば、医師も経験したことがあるため、そのつらさを患者さんと共有しながらお話しすることができます。しかし、パーキンソン病によるふるえやこわばり、姿勢反射障害を経験したことがある医師はほとんどいません。そこで重要なのが、病気について学び、症状の発現メカニズムを理解した上で患者さんの症状を想像することです。患者さんの側に立ち、どういう症状でお困りなのか、何を望んでおられるのか、想像力を働かせながらお話しすることが、患者さんの納得と動機付けにつながると考えています。

治療は医師と患者さんの“綱引き” 対話を重ねて個別の治療目標を設定

パーキンソン病の薬物治療は、60代後半以降の高齢者であれば基本的にはL-ドパ合剤が中心となります。40代、50代の比較的若年で発症した患者さんの場合は、ドパミン受容体作動薬で治療を開始することもあります。

治療開始後は、患者さんの状態を確認しながら薬の量・種類を調節します。私は、パーキンソン病の治療は患者さんと医師の“綱引き”だと思っています。20代、30代の元気な頃を100%とすると、患者さんは「100%に戻りたい」という希望をお持ちです。しかし、患者さんの現在の年齢や病気の状態を考慮すると、その希望は現実的ではないことがあります。また、100%を目指して治療を強化することは、パーキンソン病の場合は必ずしも適切ではありません。治療薬が増えすぎて収拾がつかなくなるおそれがありますし、薬が効かなくなったり、副作用の問題が出てきたりしたときの打つ手がなくなってしまいます。

そのため、医師は患者さんの希望に引っ張られすぎることなく、適切・妥当な治療目標を設定する必要があります。その目標は70%であったり、80%であったりするかもしれません。ここで医師が気をつけなければならないのは、自分が考える治療目標に患者さんを引っ張りすぎないことです。患者さんに理解・納得していただいた上で「80%を目指そう」と思っていただくことが大切なのです。患者さんと医師が双方の思いを出し合い、対話を重ねて個別の治療目標を設定する過程が“綱引き”のようだと、私は感じています。

薬物治療で症状をコントロールできているかどうかを確認する際には、患者さんご本人・ご家族からの直接の聴き取り以外に、日々の症状の変動をノートに記録していただくことが重要な情報源となります。薬の効果が出始めた時間と弱まってきた時間を記録していただくだけでも、薬の用法・用量を調節する上で非常に役立ちます。

歩きやすい環境を維持するため、家の中の整理整頓も大切

薬物治療と並んで重要なのがリハビリテーションです。当院は急性期病院ですので重度の入院患者さんに対するリハビリテーションを実施しており、外来リハビリテーションは他施設に依頼する形をとっています。

日常生活の中でできるリハビリテーションとしては、歩くことが第一に挙がります。屋外を散歩するときは、大きく手を振り、前傾姿勢にならないよう遠くを見て歩きましょう。また、パーキンソン病の患者さんは物が散乱した環境では歩きづらさを感じる傾向がありますので、家の中を整理整頓し、歩きやすい環境を維持することが大切です。

パーキンソン病の患者さんにお伝えしたいことは他にもたくさんありますが、外来診療の短い時間の中では全てをお伝えすることができません。今後の目標として、一般市民向けの公開講座など、患者さん・ご家族に直接、長い時間お話しできる機会があれば積極的に協力したいと考えています。